借金回収リーマン日記
三條慶八
その日、私は銀行で通帳に記入を行っていました。銀行のATMに通帳を差し込んで待ちます。
……ジーカチカチ、……ジーカチカチ。
音が止まるまでぼんやり突っ立っていましたが、内心はドキドキです。きちんと予定通りにお金が振り込まれていなければ、あとで大変なことになるとわかっているからです。
祈るような気持ちでATMをにらんでいると、やがて音が止まり、通帳がスーッと出てきました。
それを引っこ抜くように取り出すと、記帳された部分を開いて数字を追います。
「……なんや、これは……」
ぽつんと口から言葉が漏れました。
四〇軒の店子のうち、家賃の支払日どおり、きちんと支払ってくれていたのは、わずか一五軒。
「どういうことや」
私はもう一度つぶやくと、その場に立ちすくんでしまいました。
使った分のお金を払う。必要な対価としてお金を払う。決められた日時を守って払う。
ごくごく普通の暮らしをしている方や、日々、常識的な生活をしているのならば、当たり前のことです。考えてみてください。スーパーマーケットでキャベツを買って、お金を払わずに持って行きますか? 喫茶店でコーヒーを飲んで、お金を払わずに店を出ていきますか? バスや電車に乗るときに、お金を払わずに乗っていきますか?
そして、借りている部屋の家賃を払わずに住み続けられますか?
……ありえない。
それが、当然のごとく約束の期日に払われていない。
それまで、真っ当とまでは言いませんが、ごくごく普通の感覚を持って生きてきた私の「常識」が覆された瞬間、そういうこともあり得るのだと、思い知らされた瞬間なのでした。そして、それが私が半生を費やすことになる、「回収業務」の始まりだったのです。
――これは賃貸マンションや繁華街のテナントビルの家賃回収に奔走しつづけた、私の家賃回収残酷体験記です。
(目次より)
(00)いきなり「金ならないわ」
(01)年上の人より、強面の人より、ヤクザより……社長が怖い! !
(02)大学生がマンションを建てる! ?
(03)まずは貼り紙と連日の訪問
(04)管理人だからできる強硬手段
(05)本気で困った住人たち ~雲のようなヤツ
(06)本気で困った住人たち ~金欠のオッサン
(07)本気で困った住人たち ~ヤクザの情婦
(08)人は肩書きじゃない! ヤクザに助けられたこともある
(09)先手必勝! 備えあれば憂いなし
(10)テナントビルでもやっぱり払わない人たち
(11)水商売の人たちの言い訳と事情
(12) 商売人(プロ)回収戦争! 勃発
(13)許せる不払いと、絶対に許せない不払い
(14)思わず感心した言い訳あれこれ
(15)結局、私は人に救われた
(16)1995年1月17日
(17)140億円の借金からの回復
著者について
三條慶八
会社と家族を守る経営アドバイザー
株式会社Jライフサポート代表取締役
負債140億を背負った会社を自らの力で再生し、完全復活させた経験にもとに悩める中小企業経営者に真の会社再生法を伝授、『何があっても大丈夫! 』をモットーに、事業再生を通して経営者の人生の再生を最優先した、経営者とともに闘う真の会社と家族を守る経営コンサルタント。
立教大学に入学すると同時に家業である不動産賃貸業・飲食業などを営む会社に入社。当初1行取引であった銀行を8行まで拡大するなど、順調に事業拡大するも、阪神淡路大震災でビル1棟が全壊するなど40億以上の損害を受ける。その後に襲った金融危機で再生プランが破たんし、会社は倒産の危機に至る。その時の借金が総額140億円! しかし、どん底から不屈の精神で、自らの危機に対応。金融機関などの取引先に誠意を認められ信頼を回復し、見事会社を復活させた。
「真の事業再生は会社と家族を守る」がポリシー。机上の空論でなく、自ら体験から得た実践的な手法は多くの経営者から信頼を得ている。特に対金融機関との交渉法が、多くの顧客から評価されている。世の多くの「不安」を持つ経営者に「会社と家族を守る」方法を伝え、経営者自身の人生の再生する手法には定評がある。「もっと早く出会いたかった」「今すぐ指導してもらいたい」などの声が全国から寄せられている。中小企業経営者とともに、最後まであきらめることなく懸命に闘う姿勢に共感を得ている。
著者のビジョンは、「真面目な中小企業経営者を守る(事業を守って、経営者も守れなければ真の再生ではない)」「中小企業経営者にとって、真の再チャレンジ社会の構築を目指す」「中小企業経営者にとって不条理な、個人保証制度や再生を阻む制度を打破する」。
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